山平敦史
山平昌子
東京タワーを臨む、乙巳の初釜(1)
急に冷え込んだ1月の朝。お訪ねした都心のマンションには、くっきりとそびえる東京タワーの眺めを目の前に、柔らかい光を放つ茶室がありました。
準備のかたわら、伊藤さんが茶室の説明をしてくださいました。高層マンションの中の「市中の山」をコンセプトとしたという茶室は、三井嶺さんの設計。吹き抜けの天井まで届く香節(こぶし)の皮つき丸太が、山中の木立を連想させます。
四方の丸太に支えられ、床はふわりと浮かんでいます。目指したのは、茶室の原初の姿である「囲い」の姿。フローリングに石の根石を用いると唐突になると考え、美濃の陶芸家、安洞雅彦さんに陶石を作ってもらったのだそうです。
今日はひと続きの茶室として利用しましたが、畳敷の一畳台目と二畳の板間は、間に障子を立てて小間と待合として使うこともできます。待合に見立てた床には、結び柳が飾られていました。
床の間の壁も自在に動かせ、下板を外せば掘りごたつのように足を入れて、即席のワークスペースに早変わり。パソコンをつなぐ電源も隠されていました。
障子や襖は空間の区切りだけでなく、襖と障子を使い分けて明るさの演出にも用います。障子はあえて、伊藤さんの流派である裏千家ではあまり用いない千鳥に近い割付方法にするなど、空間全体の光を考慮した細やかな計算に感動しました。
小さなスペースが様々な可能性に開かれ、古来からの日本の暮らしと、それに寄り添うように発展した日本の建築のコンセプトが凝縮されているようです。
この茶室は大人や子どもも楽しめる、遊び心あふれる空間でもあります。戸袋のボルダリングホールドは、桧の柱の手がかりとともに、茶室の上といざないます。茶室の屋根は畳敷きで、そこでも遊ぶことができるのだそう。さらに広縁の上のネットローブをよじ登ると、吹き抜けの上の梁まで上がることができます。
その上には隠れ家のような小さな屋根が。そこからはどんな景色が見えるのでしょうか。
茶室には今も改良が加えられ、日々更新されているとのことでした。
テラスに廻ると、そこは眺めのよい露地でした。
鎌倉時代後期の宝篋印塔(ほうきょういんとう)の傘の部分を返した蹲と、手が届きそうなほど近くに見える東京タワーとのコントラストが見事です。
お客様はこの蹲で手を清め、広縁から席入りをされることになります。
→(2)に続きます。